ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開 セザンヌ、フォーヴィスム、キュビスムから現代へ|アーティゾン美術館

今回ご紹介するのは、「ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開 セザンヌフォーヴィスムキュビスムから現代へ」(会期は2023年8月20日まで)

19世紀末から第一次世界大戦が勃発するまでの間、フランスが平和と豊かさを享受することが出来たベル・エポックの時代、芸術を生み出す活気と自由な雰囲気に満ち溢れる中、フォーヴィスムキュビスムなどの新しい美術が芽吹いて花咲き、やがて表現の到達点のひとつとして抽象絵画が目覚めました。その後の抽象絵画の展開は、20世紀の絵画表現を牽引し、その潮流は同時期の日本にも及びました。
この展覧会は、印象派を起点として、世紀初頭の革新的な絵画運動を経て抽象絵画が生まれ、2つの大戦を経てさらに展開していく様子を、おおよそ1960年代まで、フランスを中心としたヨーロッパ、アメリカ、そして日本の動向を中心に展観するものです。
本展では、石橋財団コレクションから新収蔵作品* 95点を含む約150点、国内外の美術館、個人コレクション等から約100点、あわせて約250点の作品を、アーティゾン美術館の全展示室を使ってご紹介いたします。

(「ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開 セザンヌフォーヴィスムキュビスムから現代へ」 公式ページより引用)

今回の展示、すごく簡単にすごいところを並べると
○大学生まで無料!(ただし入場時間枠の予約が必要、中学生以下は入場時間枠の予約も不要)
○自分のスマートフォンにアプリを入れて無料で音声ガイドを聞くことができる!(本展示のナレーターは声優の細谷佳正さん)
アプリでは美術館外でも音声ガイドで流れる作品説明を読むことができるので、家に帰ってからでも楽しめる!
抽象絵画の歴史を、発生から歴史に沿って見ることができるのでわかりやすい
しかも最後には現代の作家の作品も多く展示してある!(とても大事!)
○マネ、ゴッホピカソカンディンスキー、クレー、モンドリアンデュシャンなど抽象絵画を語るうえでかかせない作家たちの作品が一堂に会している
○アーティゾン美術館自身の収蔵作品が多いので、近くに寄って作品を楽しむことができる 写真撮影可能な作品も多い
〇図録の色味が現物に近い!(これは個人的超嬉しいポイント)

一点だけ初心者におすすめしないところがあるとすれば、作品数が約250点と膨大なため途中でキャパシティーを超えてしまうことでしょうか…。
美術館に行く前にごはんやおやつを食べてパワーを補給しておくのと、時間に余裕をもって回るのがおすすめです。(水実は作品説明を読みながらゆっくりまわって3時間近くかかりました)

全部の作品を好き!と言っても過言ではないのですが、今回は特に見た時のお話をしたい4品を紹介します。

 

※この文章は個人の感想であり、正解や作り手の意図を探るものではありません。
また、これを読むあなた固有の鑑賞体験を阻害しようとするものでもありません。

 

「黄昏、ヴェネツィア」/クロード・モネ

入口近くに飾られていた作品だったので最初は人が混雑していて、すごく近くで作品を見て「ああ夕焼けの、オレンジが綺麗な作品だな」と思いました。徐々に人がばらけてきたので少し離れてもう一度この絵を見たとき、はっとするほど美しくて。
日没のあっという間に夜に溶けてしまう今この時を、空気を、モネはこの中にとどめたかったんだ。100年以上前の人が閉じ込めた瞬間を、今自分は見ているんだと思うとなんだか涙が出てくるほど胸がぎゅっとなった作品です。
モネの作品はどれも感情がふくよかで好きです。

「コリウール」/アンリ・マティス

コリウールとは地中海沿岸にあるスペイン国境近くの港町。マティスがここへ友人で画家のドランと滞在した際の作品だそうです。
風景画なことはなんとなくわかっても、それぞれがなんのか具体的なモチーフはわからない作品かなぁと思います。
水実は天橋立的なものを想像していましたが、実は中央の緑の部分は教会!右のピンクはヨットの浮かぶ港だそう。
色や形態が固有を離れている分、むしろ友人と訪れたこの地での暮らしが楽しい!という感情が伝わってくるような気がします。

これは作品を間近かつ下から撮影(こんなことができるのもこの展示の魅力!)
厚く塗られた筆致の活き活きした感じ!生きてる~!楽し~!が伝わってきてとても好きな作品です。

現在東京都美術館では「マティス展」が開催中です。会期は同じく2023年8月20日まで!

https://www.tobikan.jp/exhibition/2023_matisse.html

 

「集中する力」/堂本尚郎

内側からの衝動が画面に渦巻いているようなこの作品。堂本尚郎は京都の芸術家一族に生まれ、日本画家としての将来を期待されていましたが、そののち油彩画に転向した作家です。
この作品の前に立つと、作家は一体どんな風に描いたのかなという想像が膨らみます。どれくらいのサイズの筆を使っているのか、この線は一息で描いたのか、この絵具が厚い部分はチューブからそのまま?この黄色はあとから足した?などなど、ダイナミックに動く作家の姿が浮かんでくる作品でした。

 

「Reflection p-10」/鍵岡リグレ アンヌ

最後に紹介するのは現代の作家の作品。こちらなんと約2.3m×6.5m!まずはその大きさとパワーに圧倒されました。

こちら平面の作品ではなく、ところどころが盛り上がった立体になっているんです。(写真から伝われ~!)

その作品はグラフィートという古典的な壁画技法に布のコラージュを加えた独自の技法による絵画である。それは油彩に川砂を混ぜて何層か重ね、上の層を掻き落として下層の色を出して表現するという、平面でありながら油彩画のプロセスとは根本的に異なるものであり、仕上がりもまた平面作品でありながら立体的な要素が多分に残っている。
(引用:ABSTRACTION カタログより)

絵画だけど立体でもある、その三次元的なゆらぎが、モチーフの水面のゆらぎと響きあっているような不思議な作品でとても心地よかったです。
(隣で見ていた方が「地理のパズルみたい」って言っていてなるほどな~になったのも面白かった)

 

抽象絵画って楽しいし優しい

モネの作品の際にも書きましたが、抽象絵画は近くで見た時と離れて見た時の印象が違うところがおもしろいなと思っています。近くで見たときは「なにこれ?」と思っていたものが、離れた瞬間わかったり、その逆もあったり。

ここでは水実の個人的な抽象絵画を見るときの順番を紹介します!

①タイトルを見ずに絵画をみる
②自分の中で「ここの線は〇〇に見えるな〜」「色使いが森みたいだな〜」とか「筆使いが怒ってるな〜」とか「音楽だとロックかな~」とか色々考える
③タイトルや作品説明を読む
④自分の捉え方と一緒だったらわーいとなって「やっぱりこのあたりがそうだよね~」と思うし、違ったり見えなかったらどのあたりがそうなのかな〜とまた絵画をみる(それで「いやわからん~」になることもある)
⑤楽しい!!!

具象の作品を見るときには、モチーフに何が込められているのかを考えたり、どういった捉え方をしているのかなと見るのが楽しいですが、抽象絵画はより感情がダイレクトに流れ込んでくるので、すごく大変!だけど楽しい!
そして、抽象絵画を見ると少し人に優しくなれる気がします。
人にはそれぞれ違う感性や感覚、感情があることをこんなにはっきりと見せられ、そのうえでそのどれも間違ってはいないということを感じるからかな。
自分のも、ほかの人のも違うけどそれでいいし、それが楽しいしっていうこと、時々こうやってちゃんと知れるのってすごく素敵なことだと思っています。


個人的には上半期一番好きな展示でした!
ぜひ美術館で実際の作品のスケールやパワーを感じ取っていただければ嬉しいです!

www.artizon.museum